肺腺癌
肺腺癌は、肺癌の一種で、肺の奥にある「末梢部」と呼ばれる部分の肺胞(空気の通り道)をつくる細胞から発生する癌です。肺癌の中でも最も多く、特に女性や非喫煙者に多く見られるタイプです。
主な症状
- 長引く咳
- 息切れ
- 痰に血が混じる(血痰)
- 胸の痛み
- 声のかすれ
- 体重減少
- 倦怠感
など
- 健診やCT検査で無症状のうちに偶然発見されることも増えています。
症例
レントゲン画像
左上肺野外側に小経節を認める
CT画像
左上経節は偏縁が不整、一部胸膜陥入を伴う
小細胞肺がん
肺に発生する悪性腫瘍を肺がんと言いますが、肺がんは肺自体から発生する原発性肺がんと、他の部位から転移する転移性肺がんに分けられますが、一般的に肺がんと呼ぶ場合は前者を意味します。原発性肺がんでは、大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分けられ、そのうちの8割以上の患者様が非小細胞肺がんです。そこからさらに「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」などに分類されますが、そのうちの約半数の方が腺がんで全肺がん患者様の約6割を占めるとされ、肺の末梢に発生します。こちらは、喫煙との関連性はほとんどみられないので非喫煙者にもよく見られます。なお喫煙との関連が深いとされているのが、扁平上皮がん(患者数は非小細胞肺がん患者様の3割程度)です。一方の小細胞肺がんですが、こちらは増殖するのが速く、他の臓器に転移しやすいという特徴があります。喫煙との関連も指摘されています。
主な症状
- 長引く咳
- 痰(血痰)
- 息切れ
- 声がれ
- 発熱など
症例
レントゲン画像
両側肺内部は腫大し、気管支岐部は開大
側面像では、腫瘍による無気肺像を認める
CT画像
気管分岐部リンパ節腫大及び、左肺内部リンパ節腫大。右主気管支は狭窄
転移性肺腫瘍
転移性肺腫瘍とは、肺そのものから発生したがん(原発性肺がん)ではなく、他の臓器にできたがんが肺に転移した状態を指します。
大腸がん・乳がん・腎がん・子宮がんなど、さまざまな原発がんが血液やリンパの流れに乗って肺に到達し、腫瘍を転移させます。
主な症状
- 咳
- 血痰
- 呼吸困難
- 息切れ
- 胸の痛み
- 体重減少
- 倦怠感など
- 腫瘍が大きくなると症状が出やすくなります。
症例
レントゲン画像
右中肺野に空洞を伴う腫瘤、左中肺野縦隔側介は、偏縁不整な腫瘤を認める
CT画像
右下葉の腫傷は、内部の壊死を伴う腫瘍を疑う
左上葉の腫瘍は、外側に突出する様に拡大する腫瘍
肺結核
結核とも呼ばれますが、結核菌と呼ばれる細菌に肺が感染し、発症している状態が肺結核です。主に空気感染によってうつるようになります。なお実際に結核菌を吸入したとしても1割程度の方しか発病しないとも言われています。そのため、知らず知らずのうちに感染していて、免疫機能が低下した際に発病するというケースも少なくありません。ちなみに日本では、毎年2,000人程度の方が結核で亡くなっています。
主な症状
- 長引く咳
- 息切れ
- 痰に血が混じる
- 発熱など
症例
レントゲン画像
右上肺野外側に空洞を伴う類円形な腫瘤を認める
CT画像
右上葉に空洞を伴う腫瘤を認める
非結核性抗酸菌症
結核菌ではない抗酸菌によって引き起こされる感染症が非結核性抗酸菌症です。この場合、肺もしくは皮膚で感染がみられます。原因の大半は、マイコバクテリウム・アビウム・イントラセルラーレ(MAC)と呼ばれる細菌に感染したことによるもので、ほかにはカンサシ菌などがあります。
主な症状
- 喀痰
- 咳
- 血痰
- 体重減少
- 息切れ
- 発熱
など
症例
レントゲン画像
左右下肺野に浸潤影を認める。特に右下肺野には広範囲に存在。
CT画像
右中葉、下葉に気管支拡張を伴う浸潤影を認める
定型肺炎
定型肺炎とは、肺に細菌が感染して炎症を起こす病気の一種で、発熱・咳・痰・呼吸困難などの典型的な症状がみられることから「定型」と呼ばれています。
特に、肺炎球菌やインフルエンザ菌などの細菌によって引き起こされることが多く、高齢者や基礎疾患のある方では重症化することもあるため注意が必要です。
主な症状
- 高熱(38℃以上)
- 悪寒やふるえ
- 痰を伴う咳
- 胸の痛み
- 呼吸困難
- 息切れ
- 倦怠感
- 食欲不振
など
症例
レントゲン画像
左右下肺野に広範囲な浸潤影を認める。
側面像では、肺下葉の浸潤影と判断できる。
CT画像
左右下葉に、経気道性の斑状陰影及び、すりガラス陰影が混在する病変を認める。
非定型肺炎
非定型肺炎とは、いわゆる「ふつうの肺炎」とは異なる特徴をもつ肺炎のことです。細菌(肺炎球菌など)による典型的な肺炎と違い、マイコプラズマ、ウイルスなどが原因で、比較的若い人にも発症しやすく、軽い症状から始まることが多いのが特徴です。
主な症状
- 発熱(38〜39℃程度)
- 乾いた咳(数週間続くことも)
- 頭痛、だるさ、筋肉痛
- 喉の痛み
- 呼吸困難
- 胸の違和感
- 長引く咳
など
症例1
レントゲン画像
右下肺野に広範囲な浸潤影を認める。
CT画像
右下葉及び下葉に経気道性な斑状影及び浸潤影を認める。
症例2
レントゲン画像
左中下肺野に広範囲な浸潤影あり。
CT画像
左下葉に経気道性な浸潤影を認める。
肺気腫
主にタバコ等の影響によって、気管支や肺に慢性的な炎症が引き起こされ、それが長期間続くことで肺胞が破壊されている状態が肺気腫です。
肺胞はブドウの房のような形で連なっていますが、肺気腫によって肺胞壁が破壊されると壁を隔てていた隣接していた肺胞同士が融合し、拡大していきます。そのような状態になると、ガス交換率が低下するとされ、肺そのものはスカスカな状態となります。これによって、酸素が取り込めない、二酸化炭素を十分に排泄できなくなります。
それでも発症初期は、症状が出にくいとされ、ある程度まで進行すると、咳や痰がずっと続く、運動や日常の活動中の動作で息切れをするようになります。さらに病状が進むと安静時も息苦しく、体重が減少することもあります。
症例
レントゲン画像
両側肺野には、急性変化、網状陰影を認める。
側面像では、正面像で判断が出来なかった横隔膜が下に押し入れられ平坦化している。
CT画像
左右肺内は、肺胞の破壊により血管及び気管支が圧排されて黒い気腫性変化が明瞭となっている。
気管支喘息
鼻あるいは口より吸入した空気を肺(肺胞)へ送るための通り道である気管(気道)が、左右の肺に分かれて肺胞まで送る部分のことを気管支といいます。この気管支などに慢性的な炎症が起きるなどして狭窄し、喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーなどの呼吸音がする)が起きたり、少しの刺激でも咳が止まらなくなったりして息苦しい状態(喘息)などがみられているのが気管支喘息です。
発症の原因、いわゆる慢性的な炎症の原因は、アレルゲン(花粉、ハウスダスト、カビ 等)によるアレルギー症状、タバコや有害大気汚染物質の吸入のほか、風邪やインフルエンザ等のウイルス感染が引き金になることもあります。さらに運動やストレス、薬剤の影響、気候による寒暖差が激しい等もきっかけに挙げられています。
診断をつけるにあたって、重要とされているのが問診です。この場合、どのような症状かだけでなく、アレルギーの有無や家族歴などもお聞きします。さらに呼吸機能検査(スパイロメーター:息を思いっきり吸い込んで、力いっぱい吐き出す。その際の肺活量等を調べる)、血液検査(アレルギー体質の有無等を調べる)、気道可逆性試験(気管支拡張薬を吸入し、同検査前後で肺機能の状態を調べ、薬による効き目を調べる)なども行うことがあります。
治療について
気管支喘息には、喘息発作が始まった際に症状を抑制させる治療(リリーバー)と、発作の原因となる気管支の炎症を抑えていくための治療(コントローラー)の2種類があります。
リリーバー、いわゆる喘息発作を抑えるための治療としては、気管支を素早く拡張させる効果があるとされる、短時間作用型β2刺激薬(SABA)が使用されるほか、炎症を抑えられる効果が期待できる経口ステロイド薬を内服することもあります。
また同発作を起きにくくするコントローラーによる治療では、吸入ステロイド薬による治療が中心となります。さらに気管支を広げる効果が長く持続するとされる長時間作用型β2刺激薬(LABA)、アレルギーに対して効果があるとされるロイコトリエン受容体拮抗薬なども使用されます。
症例
レントゲン画像
気管支炎を疑う網状影
CT画像
気管支壁の肥大及び粘液栓を確認
自然気胸
肺を覆っている胸膜が何らかの原因で破れ、それによって胸腔内で空気が溜まっている状態を気胸と言います。空気が流入することで、空気の押す力(圧)が強くなって肺は縮むようになります。この際に胸痛、呼吸困難、乾いた咳といった症状がみられるようになります。
発症の原因については大きく分けると2つあると言われています。ひとつは原発性自然気胸と呼ばれるもので、これといった原因もなく健康な方に見受けられる気胸です。長身でやせ型の若い男性に現れやすいとされ、この場合、肺胞に生じたブラ(嚢胞:小さい膨らみのようなもの)が破れてしまうことで起きるとされ、リスク要因としては喫煙、お伝的要因などが挙げられています。もうひとつは、何らかの肺疾患や病気(COPD、肺がん、結核、肺炎 など)が原因となって引き起こされる気胸のことで、これを続発性気胸と言います。
症例
レントゲン画像
左肺は虚脱し、虚脱した上葉が高濃度陰影で認める(2度気胸)
CT画像
左肺が虚脱して、左胸腔内に漏れた空気が貯留
縦郭腫瘍
縦隔腫瘍とは、肺と肺の間にある縦隔というスペースにできる腫瘍やしこりの総称です。
縦隔には心臓・大血管・気管・食道・神経・リンパ節・胸腺などの重要な臓器があり、そこに発生する腫瘍は良性から悪性までさまざまです。
主な症状
- 胸の痛みや圧迫感
- 咳、呼吸困難
- 嗄声(声がかれる)
- 食道圧迫による飲み込みにくさ
- 上大静脈症候群(顔や首のむくみ、静脈の怒張)
など
症例
レントゲン画像
気管両側に空気の存在を疑う透亮像が存在。
CT画像
気管前縁、後縁部の間に空気が存在する透亮像を認める。
好酸球性肺炎
好酸球性肺炎は、白血球の一種である好酸球が肺に集まり、肺に炎症を引き起こす病気です。好酸球は本来、アレルギー反応や寄生虫感染などに関係しますが、何らかの原因で肺に集まりすぎると、肺胞や気管支に炎症や損傷を起こします。
好酸球性肺炎は大きく2つのタイプに分類されます。
急性好酸球性肺炎
突然発症し、急激な呼吸困難や発熱、咳などの症状が現れます。
多くの場合、喫煙の開始や大量の受動喫煙、粉塵の吸入などが関係しているとされています。
慢性好酸球性肺炎
ゆっくりと進行し、長引く咳や息切れ、体重減少、微熱などの症状が現れます。
喘息との関連が深いことが多く、中年女性に多く見られます。
症例
レントゲン画像
右肺突部から上肺野にすりガラス影及び浸潤影を伴う陰影を認める。
CT画像
左右上葉に気管支透亮像を伴うびまん性浸潤影を認める。
サルコイドーシス
サルコイドーシスは、全身の様々な臓器に肉芽腫ができてしまう病気のひとつです。外傷を負ったときには、傷を治すために肉芽という組織ができてしまいますが、サルコイドーシスは目立った外傷がないにもかかわらず、目や肺、皮膚などに肉芽腫が発生してしまうのです。目の症状がよく知られていますが、病気の影響が全身に及ぶため、胸部X線撮影やCT検査、気管支鏡検査、ツベルクリン検査、皮膚やリンパ節の生検などを幅広く行い、確定診断につなげていきます。
治療について
比較的に軽度の患者様の場合、薬物療法で対応します。まずは点眼薬を処方するので、医師の指示に従って使用するようにしてください。眼底の炎症が強いときは、さらにステロイド注射などを行います。ステロイドに不安を覚える方もいらっしゃるようですが、サルコイドーシスはステロイドの使用で高い治療効果が見込めます。患者様にもよりますが、数ヵ月~数年の内服治療によって再発のリスクを減らしていきます。詳細については、患者様に直接ご説明させていただきます。
症例
レントゲン画像
肺門部リンパ節腫大
CT画像
肺内部リンパ節腫大
肋骨骨折
肋骨とは、一般的にはあばら骨と呼ばれている箇所のことで、ここが骨折している状態が肋骨骨折です。骨は何らかの外力が骨強度を上回ることで折れるようになるわけですが、骨折とは完全に折れた場合だけでなく、ひびが入った状態も含まれます。第5~8肋骨で起きやすいと言われています。
主な症状は骨折部の自発痛や圧痛、腫れ、あざなどですが、くしゃみや咳、深呼吸、あるいは笑うなどの行為をしただけでも痛むようになりますが、これはひびが入った場合でもみられるようになります。
症例
レントゲン画像
右第7.8肋骨骨折を認める。
CT画像
多発する肋骨骨折。
薬剤性肺障害
薬剤性肺障害とは、薬の副作用として肺に炎症や損傷が起こる状態です。
抗がん剤、抗生物質、リウマチ薬、心臓病薬など、さまざまな薬剤が原因となる可能性があります。薬を使い始めてから数日〜数か月後に発症することがあり、ときに重症化して呼吸不全を起こすこともあります。
主な症状
- 息切れ(呼吸困難)
- 乾いた咳(痰が少ない)
- 発熱
- 胸の痛み
- 倦怠感
- 息苦しさの増悪
など
症例
レントゲン画像
左右下肺野に広範囲な浸潤影を認める
CT画像
両肺野に経気道性な網状影、すりガラス陰影、斑状陰など様々な陰影を認める
特発性縦郭気腫
特発性縦隔気腫とは、明らかな外傷や病気がないのにも関わらず、突然肺や気道から空気が漏れ、縦隔(肺と心臓の間の空間)に空気がたまる状態を指します。
「自然気腫」や「自然縦隔気腫」とも呼ばれ、若年者ややせ型の男性に多く見られます。
主な症状
- 胸の痛み
- 首や喉の違和感
- 息苦しさ
- 声のかすれ
- 皮下気腫など
症例
レントゲン画像
CT画像
急性虫垂炎
右下腹部にある盲腸から突き出ている紐状の器官である虫垂に炎症が起きている状態を虫垂炎と言います。虫垂炎は盲腸と同じと思う方もいるかもしれませんが、同疾患によって原因とされる部分を切除しようと医師が開腹した際に盲腸まで炎症が広がっていることも珍しくなく、そのようなことから虫垂炎は盲腸あるいは盲腸炎と呼ばれることが多くなりました。
この場合、虫垂に細菌が感染することで炎症を起こすようになるのですが、それによって腹痛(発症初期はみぞおち周辺に痛みを感じ、時間の経過と共に右下腹部)、発熱(高熱の場合は、穿孔性腹膜炎や膿瘍形成も発症することが多い)、嘔吐・吐き気、下痢などが起きるようになります。また虫垂炎に関しては、進行の程度によって、カタル性虫垂炎、蜂窩織炎性虫垂炎、壊疽性虫垂炎に分類されます。最も軽度なのがカタル性で、これは虫垂の粘膜にのみ炎症がみられる程度です。次の蜂窩織炎性は、虫垂の壁全体に炎症が広がるほか、内腔(虫垂)に膿が溜まっていきます。最も悪い状態が壊疽性で、これは虫垂組織が壊死し、虫垂壁に孔が空くようになります。このような場合、腹膜炎も発症しやすくなります。
症例1
レントゲン画像
右下腹部に大腸ガス貯留
CT画像
虫垂が腫大し、内部に糞石を認める
症例2
レントゲン画像
CT画像
虫垂が腫大及び周囲への炎症の波及
大腸憩室炎
大腸の内壁が外側に向かって袋状に飛び出している状態を大腸憩室と言います。腸内で、この憩室が形成されること自体は何ら問題になることはありません。ただ、憩室内は便が溜まりやすく、細菌を繁殖させやすい特徴があるので、それが増えるなどして感染し、炎症を起こすと大腸憩室炎となります。
ちなみに大腸とは結腸や直腸のことですが、その中でも憩室ができやすいとされる部位が、上行・S状結腸です。つまりこれら部位に炎症がみられやすいのですが、憩室の数については単発の場合もあれば、複数の数が見つかることもあるなど様々です。
なお大腸憩室炎を発症すると、腹痛(上行結腸での発症なら腹部の右側、S状結腸での発症なら左下腹部)、下痢、便秘などの消化器症状がみられるようになります。軽度の炎症のうちは、周期的な腹痛や下痢、便秘といった程度です。ただ病状がさらに進行すると、腹痛は持続的となる(痛みがひどい)ほか、発熱や血便もみられ、腹腔内に便が漏出すれば、腹膜炎や結腸周囲炎を併発するようになります。
症例
レントゲン画像
右下腹部に大腸ガスの貯留。
CT画像
上行結腸腹側に、憩室内から周囲への炎症の波及あり。
急性膵炎
急性膵炎は、膵臓に急性の炎症が起こる病気です。膵臓は食べ物の消化を助ける酵素や、血糖値を調整するホルモン(インスリンなど)を分泌する大切な臓器です。この炎症により膵臓の機能が一時的に障害され、激しい腹痛や発熱、吐き気などの症状が現れます。
主な原因
- アルコールの多量摂取
- 胆石
- 中性脂肪の異常な増加
- 自己免疫性膵炎やウイルス感染
など
症例
レントゲン画像
小腸及び大腸ガスが目立つ。
CT画像
膵尾部は低濃度で周囲への炎症の波及を疑う。
また、前腎傍腔へ速なり液体の貯留を認める。